R1 岡井俊樹(東京) vs. 三原槙仁(千葉)

岡井俊樹(東京) vs. 三原槙仁(千葉)

By 細川侑也

 

今年も始まったLMCチャンピオンシップ。

伝統ある千葉の草の根大会、LMC。その中でも年に一度の祭典となるLMCCはスタンダードとドラフトの混合フォーマットで、二日間に渡っての開催となる。

 

 

長い長い二日間に渡る戦いの第一回戦。昨年のLMCC優勝者と千葉が誇る殿堂が相対することとなった。

 

まずは昨年のLMCC優勝者、岡井 俊樹。Hareruya Hopes所属でプロツアー経験数複数。今最も勢いのある若手の内の一人でもある岡井は、昨年のLMCCで見事に優勝を収めた。

スタンダードを最も得意としており、本日もドラゴンをフィーチャーしたグリクシスカラーのコントロールデッキと、玄人好みのデッキチョイスだ。ティムール・エネルギーを見事に使いこなす岡井の姿をこれまで何度も見てきただけに、グリクシスを扱う岡井にも期待が高まる。

そしてそんな勢いのある若手に立ちはだかるは、千葉の魔王。殿堂プレイヤー、三原 槙仁だ。

主な成績を聞かれれば回答は「Many」。その言葉が決して大言壮語でないことは、マジックプレイヤーならば皆知っているであろう。ワールドチャンピオンにして、日本代表で団体戦優勝経験もある。もちろんグランプリでも何度もトップ8に入賞しており、つい先週はグランプリ名古屋で見事準優勝を果たしたばかりだ。

使用するのは、環境最強デッキと名高いゴルガリ・ミッドレンジ。この環境のスタンダードをプレイするのは本日が初めてとの事だが、情報収集はバッチリのようだ。

第一回戦にして、まるで決勝戦。強豪二人の熾烈な戦いが始まった。

 

 

 

 

 

GAME 1

先手の岡井は《蒸気孔/Steam Vents(RTR)》と《硫黄の滝/Sulfur Falls(ISD)》から《航路の作成/Chart a Course(XLN)》というスタート。《湿った墓/Watery Grave(RAV)》をディスカードして、自らのデッキがグリクシスであることを三原へと告げる。

三原は1ターン目こそ《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves(DOM)》で最高のスタートを切るも、2ターン目はパス。3ターン目にようやく引いた《マーフォークの枝渡り/Merfolk Branchwalker(XLN)》も《中略/Syncopate(DOM)》の憂き目に遭い、盤面には《弾けるドレイク/Crackling Drake(GRN)》が立ちはだかる。

この2/4飛行に対して殴れるクリーチャーを用意したい三原は《翡翠光のレインジャー/Jadelight Ranger(RIX)》を唱える。願いは通じ、トップの《ラノワールのエルフ》と《暗殺者の戦利品/Assassin's Trophy(GRN)》を落として4/3となり、見た目では《弾けるドレイク》を上回るサイズとなった。

が、続けての岡井のアクションは《火の血脈、サルカン/Sarkhan, Fireblood(M19)》からの《破滅の龍、ニコル・ボーラス/Nicol Bolas, the Ravager(M19)》。ディスカードで悩む三原は、《貪欲なチュパカブラ/Ravenous Chupacabra(RIX)》を捨てる。

 

その理由はすぐに明らかとなった。手札にはもう1枚の《貪欲なチュパカブラ》が控えていたのだ。《破滅の龍、ニコル・ボーラス》を退場させつつ、《翡翠光のレインジャー》でダメージを与えていく。

 

しかし、この三原の選択が裏目に出ることになる。岡井がフルタップでキャストしたのは《パルン、ニヴ=ミゼット/Niv-Mizzet, Parun(GRN)》!

そしてこれを三原は対処できない。仕方なく《最古再誕/The Eldest Reborn(DOM)》を唱えるも、死亡するのは横にいる《弾けるドレイク》。

 

《スカラベの神/The Scarab God(HOU)》に代わる、ターンが帰ってきたら勝ちカードの《パルン、ニヴ=ミゼット》。一瞬にして絶体絶命のピンチに陥った三原。

次に出てきた《破滅の龍、ニコル・ボーラス》は《疫病造り師/Plaguecrafter(GRN)》で対応しつつ、続くターンでは《最古再誕》で戻した《貪欲なチュパカブラ》で《パルン、ニヴ=ミゼット》を対処。見た目では、対応できているように見える。

 

…岡井の手札に、カードがなければの話だが。

《パルン、ニヴ=ミゼット》によって手札が全く減っていない岡井は、悠々とお代わりをキャストする。三原には対抗する術はもうない。そして始まるドローと火力の連鎖。除去がドローを呼び、ドローが更に除去を補充する。そしてその合間で次々と盤面のクリーチャーと三原にダメージが入っていく。

間もなくして《破滅の龍、ニコル・ボーラス》が駆けつけ、まずは岡井が2体のドラゴンで初陣を飾った。

 

 

岡井1-0三原

 

 

 

 

 

GAME2

 

三原の《僧帽地帯のドルイド/Druid of the Cowl(M19)》を岡井が《稲妻の一撃/Lightning Strike(M19)》で焼き払う第二ゲーム。

お互いに順調な立ち上がりに思えたが、続けて放った三原の《強迫/Duress(DTK)》が、岡井の表情を歪ませた。それもそのはずで、岡井の手札には2枚の《パルン、ニヴ=ミゼット》と《軽蔑的な一撃/Disdainful Stroke(KTK)》しかなかったのだ。結果、岡井の手札は2枚の《パルン、ニヴ=ミゼット》のみになってしまう。

しかも三原は更に余った2マナで《アルゲールの断血/Arguel's Blood Fast(XLN)》を設置し、手札の供給を始める。

岡井にできることは少ない。手札破壊目的で場に出てきた《疫病造り師》に《溶岩コイル/Lava Coil(GRN)》を向け、なんとか《パルン、ニヴ=ミゼット》までの時間を稼ごうとする。

 

だがその岡井の夢は潰える。5マナ目をセットして三原がプレイしたのは《パルン、ニヴ=ミゼット》に完璧な回答となる《ビビアン・リード/Vivien Reid(M19)》。

プラス能力を使って手札を肥やしつつ、岡井の6ターン目に備える。

 

最終的に《パルン、ニヴ=ミゼット》で勝ちたい岡井としては、まずは《ビビアン・リード》の忠誠値を減らさなければならない。仕方なく見えている《パルン、ニヴ=ミゼット》をキャストし、《ビビアン・リード》のマイナス能力を誘う。これで忠誠値を3まで下げて、2枚目の《パルン、ニヴ=ミゼット》から何かスペルを唱えて、マイナス能力を使わせないようにすれば良い。

 

が、その願いも叶わず。三原が次に呼び出したのは《秘宝探究者、ヴラスカ/Vraska, Relic Seeker(XLN)》。《ビビアン・リード》は再度プラス能力で三原に手札をもたらし、盤面と手札はより盤石へ。

 

もはや2枚目の《パルン、ニヴ=ミゼット》も何もせず。半ば諦めながら岡井は死にゆく運命にあるドラゴンをプレイするも、三原はまたも《ビビアン・リード》でマイナスすることはなく、手札から《貪欲なチュパカブラ》を公開し――岡井が投了するには、それで十分だった。

 

 

岡井1-1三原。

 

 

 

 

 

 

GAME3

 

 

最終ゲームもファーストアクションは三原から。だがクリーチャーではなく、《アルゲールの断血》。

除去と《軽蔑的な一撃》でキープしていた岡井にとっては最悪の1枚で、苦い顔。対照的に三原は実に嬉しそうに、ターンを終了する。

ここから穏やかに1ターンずつが経過し、次の攻防は《翡翠光のレインジャー》と《稲妻の一撃》。《翡翠光のレインジャー》の探検で《秘宝探究者、ヴラスカ》と2枚目の《翡翠光のレインジャー》を墓地に落としており、三原が土地を欲しているのが岡井の目に明らかとなった。

 

岡井の手札はリアクションスペルと《パルン、ニヴ=ミゼット》。今はまだ、ただ土地を置いてターンを返す。

 

次の三原の《翡翠光のレインジャー》は無事《森林の墓地/Woodland Cemetery(ISD)》を見つけ、ここから更に《僧帽地帯のドルイド》へと繋げる。マナさえあれば《アルゲールの断血》を使いながらアクションが取れるため、三原としてはマナが無限にほしいのだ。だからこそ、高カロリーな《秘宝探究者、ヴラスカ》を残すことなく土地を引きこみに行っていたのだ。

 

時間をかけていると《アルゲールの断血》でいずれ負けてしまう岡井。意を決してフルタップで《パルン、ニヴ=ミゼット》へと手を伸ばす。もちろんこれを除去できない三原ではなく、《最古再誕》で退ける。

 

これは岡井の狙い通りだった。間髪入れずに《詭謀+奇策/Connive+Concoct(GRN)》の《奇策》を唱え、墓地の《パルン、ニヴ=ミゼット》を釣り上げる。

しかも今回は2マナを構えており、手札には《軽蔑的な一撃》が控えている。この《軽蔑的な一撃》が三原の《貪欲なチュパカブラ》を突き刺し、《パルン、ニヴ=ミゼット》が生きたままターンが返ってくる。

 

そして岡井の時間が始まった。まずはドローで《翡翠光のレインジャー》を、《航路の作成》と《選択/Opt(XLN)》で《翡翠光のレインジャー》と《僧帽地帯のドルイド》を次々と焼き払い、一気に失った手札を回復させつつ、最終的に更地の盤面に《弾けるドレイク》と《パルン、ニヴ=ミゼット》を残すことに成功する。

 

だがあっさりと戦場の優位を明け渡す三原ではない。《ビビアン・リード》を手札から、《秘宝探究者、ヴラスカ》を《最古再誕》で墓地から場に戻して盤面を一掃。瞬く間に、取り返された盤面を再び覆す。

 

2体のプレインズウォーカーが支配する絶望的な場。だが《パルン、ニヴ=ミゼット》はこの状況を一気に解決してくれた。《航路の作成》で《ビビアン・リード》を退場させながら、《秘宝探究者、ヴラスカ》に睨みを利かせつつ、三原へと対応を迫る。「除去できなければ岡井の負け」だった状況は、たった1枚のカードで「除去できなければ三原の負け」となったのだ。恐ろしき、《パルン、ニヴ=ミゼット》。

 

このイゼットの恐るべきギルドマスターに対して三原は――きちんと回答を用意していた。《ゴルガリの拾売人/Golgari Findbroker(GRN)》で《最古再誕》を回収してこれを即プレイ。2ターン後には《秘宝探究者、ヴラスカ》が再び場に戻るのも確定している。《ビビアン・リード》ではなく《最古再誕》にしたのは、3枚目の《パルン、ニヴ=ミゼット》に備えてのチョイスだ。再び三原が優位に立つ。

 

のだが、岡井の手から飛び出したのは4度目の《パルン、ニヴ=ミゼット》。《弾けるドレイク》もお伴として登場し、戦場の状況はまたもや岡井に傾く。

とはいえその優位は僅かなもので、カード1枚で再び有利と不利が入れ替わる、揺蕩った状況だ。だからこそ、岡井の表情は真剣そのものだ。「そろそろ生き残ってくれ」という岡井の心の声が聞こえてくる。

 

しかし祈りは通じず。次の《秘宝探究者、ヴラスカ》と《疫病造り師》が《パルン、ニヴ=ミゼット》とついでにその横にいる《弾けるドレイク》も墓地送りに。目まぐるしく変わっていく戦況で、再び窮地に陥ったのは岡井。戦場にクリーチャーがいない状況で、またもやプレインズウォーカーを対処しなければならない。しかも対処するだけでは劣勢になるため、こちらから攻められるカードもほしい。

 

そんな岡井の我儘を叶えてくれるカードはあるだろうか?

言うまでもなく、《パルン、ニヴ=ミゼット》だ。このゲームだけでなんと5回目の降臨。戦場に残る《秘宝探究者、ヴラスカ》を焼き、再び天秤を岡井側に傾ける。

 

――いや、傾いたかのように見えただけだった。ゲームを掌握していたのは、2ターン前から三原だった。

2枚目の《パルン、ニヴ=ミゼット》を除去していた《最古再誕》が、墓地から《秘宝探究者、ヴラスカ》を釣り上げる。この状況を予期していた三原が残していた保険だ。

5度地上へと落ちる、《パルン、ニヴ=ミゼット》。

 

天秤はもう、覆ることはなかった。

 

 

岡井1-2三原